問題はスタンダードのブロック構築化である
2017年5月18日 TCG全般 コメント (5) 昼間にtwitterに書いた内容。
ウィザーズがPlay Designなるチームを発足するらしいです。なんでもプロツアーで実績のある実力者たちにプレイテストさせてトーナメント環境の改善を図るんだとか。
まあ、それ自体はいいことだと思うんですが、それによってここ最近のスタンダードの「なんだか上手くいってない感じ」がどれだけ改善できるのかについては懐疑的な見方をしています。
そもそもこの「なんだか上手くいってない感じ」の最大の原因はプレイテストの不十分さではないのでは? プレイテストの精度を向上させても根本的な解決に結びつかないのでは? というふうに考えています。
タルキールブロックが去って以来ずっとスタンダードが上手くいってないということに関しては多くの人の同意が得られるものだと思います。イニストラード期はみんなバントカンパニーにうんざりしていましたし、カラデシュ期には計4枚の禁止カードが出てしまいました。スタンダードはかつてと比べると大幅に人気を落としているようで、ショップで最新パックが売れないという話も聞きます。
しかし、問題となるここ最近のカードの中で極端なレベルでの調整ミスはサヒーリコンボの見落としくらいだろうという気がします。確かにカンパニーやギデオンやエムラクールやコプターは超強力ですが、親和やカウブレードを成立させてしまったレジェンド級の調整ミスに比べれば遥かに可愛いものです。せいぜい十手や苦花や血編み程度の調整ミスなのではないかと思います。サヒーリコンボに関しても、双子コンボがスタンダードではそこまで大きな問題となっていなかったことを考えると、ひょっとするとそう極端な調整ミスとは言えないかもしれません。
また、問題となるここ最近のスタンダード環境では圧倒的一強が支配するような環境はありませんでした。その点でも極端なレベルでの調整ミスがあったわけではないと言えるでしょう。スタンダードに問題があるといっても、旧ミラディンのときのような調整のガバガバさは感じられません。
最近のスタンダードにおける最大の問題はデッキ選択における選択肢が少なすぎることです。確かに勝利を求めないのであれば何を使おうが自由です。しかし、トーナメント志向のプレイヤーでなくとも負けるのは楽しくありません。勝率を最大化することよりも好きなデッキで遊ぶことを優先したいプレイヤーであっても、ある程度以上の勝率を見込める範囲内でデッキ選択をしたいものです。
しかし、例えば霊気紛争環境のスタンダードでは機体、サヒーリ、緑黒蛇、塔の4つ以外のデッキは選択肢たりえませんでしたし、異界月環境もカンパニーを使うかエムラクールを使うかの2択でした。
これが例えばテーロス環境だったらどうだったかというと、tier1は黒単信心、青単信心、青白(及びエスパー)コントロールの3強でしたが、その下には赤いデッキだけでも赤単信心、バーン、スライとあり、他にもコロッサルグルール、赤緑モンスター、白黒人間など多様なデッキが存在し、tier1以外は使うに値しないというようなことはありませんでした。そして、例に挙げたテーロス環境が特別多様性に富んだ環境だったというわけではなく、これまでスタンダードにこれくらいの多様性は当たり前にあったのです(一強環境除く)。
それが今ではデッキの選択肢はせいぜい4つ、あるいはもっと少ない数しかなくなってしまっています。これはスタンダード環境としては違和感を覚えざるをえない状況です。しかし、これくらいデッキの選択肢が少ないのが当たり前な構築環境を我々は知っています。
ブロック構築です。
今起きている問題はスタンダードのブロック構築化だというのが僕の仮説です。
カードプールの狭いブロック構築はデッキの選択肢が狭いのが当たり前でした。オデッセイブロック構築で黒コンでもマッドネスでもないデッキを使うのは相当な物好きです。イニストラードブロック構築はPTこそ奇跡コントロールが勝ったものの一瞬でかがり火と銀心だけの世界になりました。どうしてもカードプールが狭いとそのようになってしまうことを避けられないものです。
そう、問題はカードプールの広さです。今のスタンダードは印刷されているカードの枚数こそ以前通りなものの、構築でプレイアブルな実質的カードプールの広さがブロック構築レベルになってしまっているのではないでしょうか。
最近のカードのインフレとデフレは歪です。セットの目玉カードはカードパワー盛り盛りに調整されインフレしていっているのに対し、そうでない低レアリティの基本的な効果のカードはデフレしていています。マナクリーチャーは2マナ、ランパンは3マナ、カウンターも3マナ、火力は本体に撃てない。一部の目玉カードのカードパワーに付いていけるカードの数はごくわずかです。
ここで神河-ラヴニカ期のスタンダードについて思い出してみましょう。個人的に過去最高のスタンダード環境を選ぶならこの環境ですし、同じ意見の人はかなりの数いるのではないかと思います。
この環境には梅澤の十手というそれはもうひどいカードがありました。なんでも-1/-1の能力は締め切り直前に付けられたものでロクにテストされずに世に出てしまったらしく、誰もが認める調整失敗カードと言ってしまって差し支えないでしょう。
しかし、十手は環境を破壊しませんでした。確かに十手ゲーはつまらないものでしたが、そもそも十手を使わないデッキが数多く存在したのです。
十手はセレズニアやオルゾフといったミッドレンジアグロを支えました。一方で、それとは異なる、十手を必要としない戦略も高いレベルで成立していました。
印鑑や桜族の長老、木霊の手の内といった優秀なマナ加速が存在した上にマナリークとリマンドという極めて高性能なカウンターも存在したため、グレーターギフト、ソーラーフレア、イゼットロンといったビッグマナ気味のコントロールは有力な選択肢でした。
稲妻のらせん、黒焦げといった優秀な火力があったため、ボロス、グルール、Zooといった前のめりにライフを攻めるデッキも強力でした。
このように様々な方向性の強いカードがあったため多様な戦略が肯定され、調整ミスカードにも関わらず十手が環境の中で飛びぬけた存在になることはありませんでした。
もしも印鑑が「あらゆる色の組み合わせで2マナでマナ加速できるのは強すぎる」となって3マナになっていたら、それだけで十手が環境を破壊する危険性は高まっていたのではないかと思います。
このように、多様な戦略が高いレベルで実現できるのであれば調整ミスで多少強すぎるカードが出てしまっても環境はそれを受け止めるだけの弾力性を持ちます。今はマナ加速もカウンターも本体火力もことごとく弱いものしか用意されていないため、多様な戦略が実現できず、強すぎるカードを受け止めるだけの弾力性が不足しています。
実は今のスタンダードの問題はインフレよりもデフレによって引き起こされているのではないかというのが僕の見立てです。そして、この原因はテストプレイの不足ではなくカードを作る上での方針にあるためテスト体制を強化してスタンダードが改善されるのかに疑問符が付くというわけです。
そして、多くのプレイヤーはゲーム性よりも多様性を求めているのではないかとも思います。
ハースストーンの現在のウンゴロ環境は面白いという声が多い環境ですが、プレイしてみると4ターン目に相手の生物が全員5/5になったり1ターン目に8点クロックを用意されたりと無茶苦茶されてどうしようもなく負けることがそこそこの頻度であります。これはゲーム性としてはちょっと面白くない。でも、じゃあこの環境はつまらないのかといったら面白いんですよね。その理由はシンプルで、色んなデッキがいるから。体験に多様性があるとやっぱり面白いです。
ウィザーズがPlay Designなるチームを発足するらしいです。なんでもプロツアーで実績のある実力者たちにプレイテストさせてトーナメント環境の改善を図るんだとか。
まあ、それ自体はいいことだと思うんですが、それによってここ最近のスタンダードの「なんだか上手くいってない感じ」がどれだけ改善できるのかについては懐疑的な見方をしています。
そもそもこの「なんだか上手くいってない感じ」の最大の原因はプレイテストの不十分さではないのでは? プレイテストの精度を向上させても根本的な解決に結びつかないのでは? というふうに考えています。
タルキールブロックが去って以来ずっとスタンダードが上手くいってないということに関しては多くの人の同意が得られるものだと思います。イニストラード期はみんなバントカンパニーにうんざりしていましたし、カラデシュ期には計4枚の禁止カードが出てしまいました。スタンダードはかつてと比べると大幅に人気を落としているようで、ショップで最新パックが売れないという話も聞きます。
しかし、問題となるここ最近のカードの中で極端なレベルでの調整ミスはサヒーリコンボの見落としくらいだろうという気がします。確かにカンパニーやギデオンやエムラクールやコプターは超強力ですが、親和やカウブレードを成立させてしまったレジェンド級の調整ミスに比べれば遥かに可愛いものです。せいぜい十手や苦花や血編み程度の調整ミスなのではないかと思います。サヒーリコンボに関しても、双子コンボがスタンダードではそこまで大きな問題となっていなかったことを考えると、ひょっとするとそう極端な調整ミスとは言えないかもしれません。
また、問題となるここ最近のスタンダード環境では圧倒的一強が支配するような環境はありませんでした。その点でも極端なレベルでの調整ミスがあったわけではないと言えるでしょう。スタンダードに問題があるといっても、旧ミラディンのときのような調整のガバガバさは感じられません。
最近のスタンダードにおける最大の問題はデッキ選択における選択肢が少なすぎることです。確かに勝利を求めないのであれば何を使おうが自由です。しかし、トーナメント志向のプレイヤーでなくとも負けるのは楽しくありません。勝率を最大化することよりも好きなデッキで遊ぶことを優先したいプレイヤーであっても、ある程度以上の勝率を見込める範囲内でデッキ選択をしたいものです。
しかし、例えば霊気紛争環境のスタンダードでは機体、サヒーリ、緑黒蛇、塔の4つ以外のデッキは選択肢たりえませんでしたし、異界月環境もカンパニーを使うかエムラクールを使うかの2択でした。
これが例えばテーロス環境だったらどうだったかというと、tier1は黒単信心、青単信心、青白(及びエスパー)コントロールの3強でしたが、その下には赤いデッキだけでも赤単信心、バーン、スライとあり、他にもコロッサルグルール、赤緑モンスター、白黒人間など多様なデッキが存在し、tier1以外は使うに値しないというようなことはありませんでした。そして、例に挙げたテーロス環境が特別多様性に富んだ環境だったというわけではなく、これまでスタンダードにこれくらいの多様性は当たり前にあったのです(一強環境除く)。
それが今ではデッキの選択肢はせいぜい4つ、あるいはもっと少ない数しかなくなってしまっています。これはスタンダード環境としては違和感を覚えざるをえない状況です。しかし、これくらいデッキの選択肢が少ないのが当たり前な構築環境を我々は知っています。
ブロック構築です。
今起きている問題はスタンダードのブロック構築化だというのが僕の仮説です。
カードプールの狭いブロック構築はデッキの選択肢が狭いのが当たり前でした。オデッセイブロック構築で黒コンでもマッドネスでもないデッキを使うのは相当な物好きです。イニストラードブロック構築はPTこそ奇跡コントロールが勝ったものの一瞬でかがり火と銀心だけの世界になりました。どうしてもカードプールが狭いとそのようになってしまうことを避けられないものです。
そう、問題はカードプールの広さです。今のスタンダードは印刷されているカードの枚数こそ以前通りなものの、構築でプレイアブルな実質的カードプールの広さがブロック構築レベルになってしまっているのではないでしょうか。
最近のカードのインフレとデフレは歪です。セットの目玉カードはカードパワー盛り盛りに調整されインフレしていっているのに対し、そうでない低レアリティの基本的な効果のカードはデフレしていています。マナクリーチャーは2マナ、ランパンは3マナ、カウンターも3マナ、火力は本体に撃てない。一部の目玉カードのカードパワーに付いていけるカードの数はごくわずかです。
ここで神河-ラヴニカ期のスタンダードについて思い出してみましょう。個人的に過去最高のスタンダード環境を選ぶならこの環境ですし、同じ意見の人はかなりの数いるのではないかと思います。
この環境には梅澤の十手というそれはもうひどいカードがありました。なんでも-1/-1の能力は締め切り直前に付けられたものでロクにテストされずに世に出てしまったらしく、誰もが認める調整失敗カードと言ってしまって差し支えないでしょう。
しかし、十手は環境を破壊しませんでした。確かに十手ゲーはつまらないものでしたが、そもそも十手を使わないデッキが数多く存在したのです。
十手はセレズニアやオルゾフといったミッドレンジアグロを支えました。一方で、それとは異なる、十手を必要としない戦略も高いレベルで成立していました。
印鑑や桜族の長老、木霊の手の内といった優秀なマナ加速が存在した上にマナリークとリマンドという極めて高性能なカウンターも存在したため、グレーターギフト、ソーラーフレア、イゼットロンといったビッグマナ気味のコントロールは有力な選択肢でした。
稲妻のらせん、黒焦げといった優秀な火力があったため、ボロス、グルール、Zooといった前のめりにライフを攻めるデッキも強力でした。
このように様々な方向性の強いカードがあったため多様な戦略が肯定され、調整ミスカードにも関わらず十手が環境の中で飛びぬけた存在になることはありませんでした。
もしも印鑑が「あらゆる色の組み合わせで2マナでマナ加速できるのは強すぎる」となって3マナになっていたら、それだけで十手が環境を破壊する危険性は高まっていたのではないかと思います。
このように、多様な戦略が高いレベルで実現できるのであれば調整ミスで多少強すぎるカードが出てしまっても環境はそれを受け止めるだけの弾力性を持ちます。今はマナ加速もカウンターも本体火力もことごとく弱いものしか用意されていないため、多様な戦略が実現できず、強すぎるカードを受け止めるだけの弾力性が不足しています。
実は今のスタンダードの問題はインフレよりもデフレによって引き起こされているのではないかというのが僕の見立てです。そして、この原因はテストプレイの不足ではなくカードを作る上での方針にあるためテスト体制を強化してスタンダードが改善されるのかに疑問符が付くというわけです。
そして、多くのプレイヤーはゲーム性よりも多様性を求めているのではないかとも思います。
ハースストーンの現在のウンゴロ環境は面白いという声が多い環境ですが、プレイしてみると4ターン目に相手の生物が全員5/5になったり1ターン目に8点クロックを用意されたりと無茶苦茶されてどうしようもなく負けることがそこそこの頻度であります。これはゲーム性としてはちょっと面白くない。でも、じゃあこの環境はつまらないのかといったら面白いんですよね。その理由はシンプルで、色んなデッキがいるから。体験に多様性があるとやっぱり面白いです。
コメント
まさにブロック構築みたいな感じですね。
開発の記事を読むと除去やカウンターにあえて穴を持たせることでスペル選択の余地ができるという意図での調整のようですが、
結果としては弱い対応選択肢から選ぶよりも強カードを使う側になるしかないという感じですね。
BFZ ギデオン
OGW エルドラージ軍団
SOI アヴァシン
EMN エムラクール
KLD チャンドラ
AER キラン号
冷静な判断というより、感情の問題で。
好きなデッキが使えない環境とか、確かに嫌になりますよね。
そういえばラヴニカはブロック構築も、ランプがちょっと強すぎましたが、そこそこ色々組めましたね。フィニッシャーが多かったからでしょうか。
納得の内容です。
個人的に感じていたのが、リミテ前提でセットの強さを設定しているのか
例えばX火力は昔はコモンでしたが、近年はレアになったりと…
構築で使い物になるカードが極端にレアと神話レアに偏るので
リミテ前提のセット構成をする方針は一度破棄して、
文中にあるような、バーンもスライも、各色それぞれが単色で組めるアーキタイプと2色でも最低限の戦力を確保できるセット構成にすれば良いんじゃないかとは思います。
モダンマスターズ2017のカードリスト見た時に、普段のセットはどんだけリミテ前提のゴミカード(構築では使われることはまずない)があるのかと感じました。
特別に強いカードだけパックに詰めるって事ではなくて、
最低限の強さはコモンやアンコモン全般に持たせて欲しいって意味です。